農家紹介

農産直売所「あぜみち」にご提供いただいている農家さんや、あぜみちで取り扱っている季節の野菜を使ってくれているお店のご紹介です。

お知りになりたい農家さんを選んで下さい。

株式会社 大三 小松 大起さん就農して13年目若い力で大規模農場を経営

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 下野市内に約3万坪、ハウスだけで1万800坪という広大な農地を所有し、年間を通してホウレン草や小松菜、ナスを中心に多くの野菜を栽培している株式会社 大三。代表を務める小松さんは「自分が農家になるなんて思っていなかった」と笑う。実家は非農家の自営業で、社会人となった当初は家業を手伝っていたが27歳で退職。何をしようか考えた時、自然と触れ合うことができる農業に魅力を感じ、一から取り組むことを決めた。当時はリーマンショック後の第一次就農ブーム、県農業大学校の未来塾を卒業後、新規就農者支援事業を利用し、下野市に農地を借り、最初の一歩を踏み出した。その後「失敗もたくさんしつつ(笑)」今年農園は13年目を迎えている。「育て方が違う多くの野菜を栽培していくには、たくさんの知識と経験が必要です。植え付け時期、水や肥料の与え方など試行錯誤を続けてきました」と話す。たくさんの苦労がある中でも『野菜作りと人づくりに愛情をかけること』は決して忘れない小松さん。農園のスタッフは20名以上、海外からの技能実習生も多く、少しでも楽しい環境で働いてもらいたいと、小松さん自らハンドルを握り、スキーや登山に連れ出すこともあるという。そんな愛情あふれる経営者のもと、まだまだ成長し続ける、農園の今後が楽しみだ。
 そんな大三自慢のナスを使った創作フレンチを作り上げるのは、ビストロウエノのオーナーシェフ上野 剛さん。「水分がしっかり詰まった上質なナスだというのは、手に持っただけでわかりますね」と評価は高い。「これからの季節、どんどんおいしくなるナスをぜひ味わってください」。ナスを使った夏限定メニューはほかにも多数。ゆっくりワイン片手に味わいたい。

収穫が始まったばかりのナス。苗は大人の背丈を超えるほどに成長していくそう。バイタリティと愛情あふれる小松代表。

フジワラアグリコルトゥーラ 農業アドバイザー相田 巧さん次世代農業の形を目指すオーガニック農園

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 宇都宮市北部、東京ドーム1個分という広大な敷地一面に、ソーラーパネルが並んでいる。その足元を有効活用し、土壌改良を一から行い、年間120種類ものオーガニック野菜を栽培しているのが「フジワラアグリコルトゥーラ」だ。今年2月からネット販売を開始すると「今まで食べていた野菜とは別物!」と驚きの声が上がり、すでに多くのリピーターを獲得している。「本当においしいので、一度食べてみてください」と胸を張るのは木村 理 代表だ。木村さんもスタッフも、もとは農業とは無縁。海外から来日しているスタッフもおり「彼らに技術を身につけさせ独立させたい」と木村さん。「いずれ敷地を広げて観光農園を作りたい」という構想もあるのだそう。ソーラーパネル売電と野菜栽培で収益を得、人を育てることで国際貢献の一助ともなる可能性を秘めるこの農園の形は、新しいビジネスモデルの提案にもなっているのだ。
 そんな木村さんに賛同し、アドバザーを務めるのは農業指導のスペシャリスト相田 巧さん。埼玉県から足を運び、直接指導を行っている。相田さんにとってもこの規模の農園づくりは初めての経験だそうだが「安全でおいしく栄養豊富な野菜を作り、自動化・省人化させた持続可能な次世代農業の仕組み作りに協力できたらと思っています」と話してくれた。
 四季折々たくさんの野菜が実るフジワラアグリコルトゥーラでも、人気野菜の一つがアスパラガス。宇都宮市にある健康志向のデリ専門店「FARMDELI」でもこの時期アスパラメニューが登場する。「アスパラは今が最盛期。みずみずしく甘い味わいを楽しんでほしいですね」と相馬オーナー。オーガニック野菜の力強い味わいをぜひ一度味わってみてほしい。

若いスタッフが自然本来の力を使った農業に取り組む。放し飼いのチャボや軍鶏などは除草担当。

株式会社 キヌナーセリー 齋藤 芳哲さん全国に名を知られる胡蝶蘭栽培のパイオニア

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 宇都宮市東部、鬼怒川近くに並ぶハウスに入ると、胡蝶蘭に囲まれる夢のような世界が広がっていた。キヌナーセリーが胡蝶蘭の栽培を始めたのは1973年、まだ栽培方法が確立しないなか、試行錯誤を重ね、現在、年間出荷数22万株という、全国でも指折りの胡蝶蘭栽培農家となった。通常、海外で育てた苗を輸入し、国内で花を咲かせ出荷するスタイルが胡蝶蘭栽培の主流だが、キヌナーセリーではグループ企業連携によるリレー栽培を導入。自社ですべての工程を管理し、貴重な純国産の胡蝶蘭を生産している。「胡蝶蘭は生育環境を整えるのが難しく、栽培期間も2年~2年半と長いため、高い技術が必要です。日々花と向き合い手をかけた結果が、咲いたときにわかる。そこがやりがいですね」と齋藤さん。これまでも多くのオリジナル品種を生み出しているが、現在も新品種開発を続けるなど、前進を続けている。
 一方、咲き終わった株を預かり再び花を咲かせる取り組みも行っており、全国から依頼が舞い込む。贈った人と受け取った人、それぞれの想いをつなぐ特別な蘭だからこそ長く楽しんでほしい、そんな齋藤さんの想いが伝わる。「もっと多くの人に蘭の魅力を伝えたい。身近に感じてもらう工夫をこれから考えていきたいですね」。
 そんな愛情を込めて育てられた胡蝶蘭を、母の日の贈り物として提案してくれるのは「ffHK 花亀」。「齋藤さんの胡蝶蘭は本当に品質が高く素晴らしい。日持ちもするので自信を持って勧められます」と亀井店長。「コロナ禍でなかなか会えないお母さんに、いつもよりちょっと豪華に胡蝶蘭を送りたいという方も多いです」。こんな時だからこそ「幸福が飛んでくる」という花言葉を持つ胡蝶蘭を贈ってみてはいかがだろう。

色とりどりに咲き誇る胡蝶蘭。仕上げも熟練スタッフが行う。

髙橋農園 髙橋 祐哉さん祖父の想いを受け継ぎ イチゴ農家へ転身

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 2年前まで、飲食店の店長を務めていた髙橋さん。29歳という若さで農家へ転身したきっかけは祖父の死だった。野菜嫌いだったが、祖父の育てた野菜だけは食べられたという髙橋さんにとって、祖父の畑は特別な場所。しかし祖父の死後、畑は放置され荒れていった。「自分のルーツであり、祖父が大切にしていた畑を守りたくて、農家を継ぐ決心をしました」。店を辞め、県農業大学校の未来塾で技術を学び、昨年イチゴ農家として一歩を踏み出した。とはいえ既に50メートルのハウスが8棟、新規参入としては大規模だ。「農家は家族経営が多いですが、僕は企業化したいです。そのためには年間を通しての収益が必要で、夏野菜の栽培なども考えたらこの規模になりました」。店長として培った経営者視点も役立っている。「他業種から入る僕のような立場は、新しいことにチャレンジしやすい。これから農業をやりたいと思っている人たちが働きやすい環境づくりを考えていきたいです」。
 現在栽培しているのは「とちおとめ」のみだが、いずれ品種を増やし、ハウスを増設し、市街地から近い立地を生かした観光農園のような形を作り、地域のカフェなどとコラボレーションし街を盛り上げたいと考えているそう。髙橋さんの今後の活躍が楽しみだ。  そんな髙橋農園の「とちおとめ」を使ったフルーツサンドが人気なのが、昨年オリオン通りにオープンした「茶果TEA ROOM」。「髙橋さんはいつも真っ赤に完熟した一番おいしいイチゴを届けてくれます」と荒井店長。「酸味と甘さのバランスが良く本当においしいイチゴなのでいろいろ使ってみたくなります」。イチゴと店オリジナル生クリームとの相性も抜群。至福のひとときを運ぶ一品だ。

大谷石の蔵が選果場兼直売所。大きな完熟イチゴは、温度や梱包方法までこだわった独自のマニュアルのもと管理され出荷される。

リンネ農園 仙波 洋子さん初収穫にしてこの品質!肉厚な極上シイタケ

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 農業とはまったく無縁だった仙波さんが、初めてのシイタケの栽培を始めたのは昨年6月。経営母体である仙波建設がシイタケ栽培に取り組むことを決め、仙波さんが任されることとなったのだ。すべてが初めての経験、壬生町にある菌床メーカー「株式会社 北研」の研修を受けノウハウを学び、今もサポートを受けながら栽培にあたっているという。試行錯誤を繰り返し育てたシイタケは無事収穫期を迎え、今は出荷作業の真っただ中だ。「シイタケはとても繊細で、環境が少しでも違ってしまうと思うように育ちません。ちょっとぶつかった刺激で、大量に発生してしまったり(笑)失敗もありますね」。通常シイタケ栽培は、菌床全体から発生させる「全面栽培」だが、リンネ農園では、側面をビニールで囲み、上面からのみ発生させる「上面栽培」を採用、培地中の栄養分や水分が効率よく吸収されるこの栽培方法により、大きくて肉厚なシイタケが育っている。現在、8000床の菌床が並ぶハウスが3棟、さらに1棟増築中で3万床の規模になる予定。「今後は子どもたちに摘み取り体験をしてもらえるようにして、食育にもつなげていきたいと思っています」。仙波さんのシイタケ栽培への情熱が、今後どう展開していくのか楽しみだ。
 そんなリンネ農園のシイタケを手に「本当に立派なシイタケで、いろいろな料理に使ってみたくなりますね」と話すのは「トラットリアココロ」の若色謙次シェフ。「肉厚で甘みとうまみがたっぷり。焼いても形が崩れず、ジューシーでそのまま焼くだけで十分おいしいです。本当に上質なシイタケですよ」と太鼓判を押す。リンネ農園の極上シイタケは、あぜみち上戸祭店・鹿沼店ほか、道の駅にのみややネット通販などで購入可能だ。

ハウスの管理には、湿度や二酸化炭素濃度などを自動計測し、スマホにデータを届けてくれるアプリも採用。「スタッフ全員で繊細なシイタケの環境に細心の注意を払い心を込めて育てています」。

株式会社 谷中農園 谷中 正幸さん高い糖度と強いうまみ 食べた人を魅了するイチゴ

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 いつも頭の中にはイチゴのことがある、という谷中さん。「全然関係ないことをしていても、これはイチゴに応用できるかも、と考えてしまうんです」と話す。谷中農園の三代目、二代目の父と70aの畑で「とちおとめ」「スカイベリー」「とちあいか」を栽培している。通常イチゴの糖度は10度前後だが、谷中農園のイチゴは糖度13度、濃厚な甘い味わいに、一度食べた人は口をそろえて「谷中農園のイチゴは違う」と驚く。「特別なことは何もしていません。一つひとつの仕事を、すべて高いレベルで確実に行うだけです」。イチゴという小さな植物の小さな変化を、見逃さないよう注意深く観察し、先を見越し対応を考える。当たり前のことを当たり前に行うこと、その難しさに真摯に向き合う谷中さんの姿からは、イチゴへの深い愛情を感じずにはいられない。
 今後はイチゴを使ったクラフトビールの製造などにも取り組む。「イチゴはとてもポテンシャルが高く、たくさんの可能性を秘めているんです」。新しい取り組みを先頭に立って行い、後進のモデルケースを作りたいと語ってくれた。
 そんな谷中さんのイチゴに魅せられ、ケーキ名に「谷中農園」とつけた商品を販売しているのが、栃木市の人気フランス菓子店「ソワール」の片柳店長。「谷中さんのイチゴは香り・味・こだわりが感じられ、味にブレがない。タルトのほかにも、『フレジエ・ピスターシュ』『エクレール・とちおとめピスターシュ』など、谷中さんのイチゴを使った商品がありますので、ぜひ違いを楽しんでください」。谷中農園のイチゴを使ったスイーツは、「ソワール」のほか「シャンティイ」「和菓子処 仁」「かのこ庵」でも楽しむことができるので、ぜひ食べ比べてみて。

土での栽培のほか、高設水耕栽培にも取り組む。谷中さんのイチゴは栃木市内「コエド市場」「よっとこれ」、小山市「四季彩館」、宇都宮市ろまんちっく村「あおぞら館」「あぜみち各店」などで購入できる。

田口いちごファーム 田口 友章さんその味わいに誰もが驚く概念を覆すスカイベリー

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 11月に新たに建てた選果場を兼ねた直売所をオープンしたばかりの「田口いちごファーム」。代表を務める友章さんは、建築関係の仕事からイチゴ農家に転身して10年となる。先代の父親からノウハウを学びながら、自身も「とちぎ農業未来塾」でイチゴづくりや、経営など農業の基本を学んだそう。現在は52 aの畑で、とちおとめ・スカイベリー・とちあいか・ミルキーベリーを栽培している。特に、スカイベリーについては、7年前の品種開発の段階から参加し、栽培方法の確立に貢献してきた。
 友章さんが作るスカイベリーは別格とさえ言われ、他県からわざわざ買い求めに来るリピーターも大勢いるという超一級品だ。高品質のイチゴを作り上げる秘密は「土」にあるという。「品種それぞれに合った土づくりにこだわり、有機肥料を使って栽培しています。水はけの良い畑であることも、味に締りがあるおいしいいちごを作るためには大切ですね」。こうしたイチゴづくりの確かな技術が認められ、田口さんは県知事から“農業マイスター”に認定されており、研修生を預かり農業指導を行っている。「毎年気候が違いますから、育て方も違ってきます。同業のグループで情報交換を行い、良いと聞けば取り入れたりしています」。認められて尚、試行錯誤を繰り返しさらなる上を目指す田口さん、試食させていただいたイチゴの豊かな味わいに、イチゴつくりへの情熱が感じられた。
 イチゴ王国とちぎの飲食店では、この季節さまざまなイチゴスイーツがメニューを彩る。宇都宮市にある「カフェアンフィル」では、人気の『季節のフルーツタルト』の主役がイチゴに。パティシエの技でさらにおいしくなったイチゴの味わいを存分に楽しみたい。

11月23日に新築オープンした選果場兼直売所。イチゴを買い求める客が次々やってくる。大きな実が熟してから収穫される。

農業生産法人 株式会社 篠原ファーム 篠原 和貴さん6次化にも取組む 新たな形のイチゴ農園

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 小山市にある篠原ファーム代表を務める和貴さん。「家を継いで農業をやろうとは思っていませんでした」。大学を出て一般企業に就職、農家は手伝い程度だったが、先代の父と一緒にイチゴ作りと向き合う中で、徐々に「やってみようか」と気持ちに変化が起きた。現在は、49アールあるの畑で「とちおとめ」や「ミルキーベリー」のほか、今年から新品種「とちあいか」の栽培にも着手している。
 また、経営者となった今、きついと評されがちな農業について、楽しい仕事にするにはどうしたらいいか?ここで働きたいと思ってもらうには何が必要か?を考えている。「新しく設置したハウスでは高設栽培を導入しました。立ったまま作業ができるので負担を軽減できます」。今後も環境改善を進めていくつもりだが、手を抜くことは一切考えていない。「農業は自分との戦い。手を抜こうと思えば抜けますが、その中でどれだけ手をかけられるかだと思います」。若き経営者の目は、今に満足することなく先を見据えている。  そして今月、作業場を兼ねた直売所をオープンした。「出荷するだけではわからないお客様のダイレクトな反応がわかるし、自分で作ったものは自分の手で売りたかったんです」。直売所にはイチゴを使ったジェラートが楽しめる店舗も併設している。
 一方、以前から篠原ファームでは6次化にも取り組んでおり、小山市内にある洋菓子店「シェフレ」を経営。店ではケーキなどにイチゴをそのまま使うのはもちろん、形が揃わず出荷できなかったイチゴを、ジェラートやソースとして活用している。今年は「とちあいか」を使ったメニューも考案中。今話題の「とちあいか」を、一足先にスイーツで味わってみては。

直売所横にある高設栽培を取り入れた新しいハウス。見学も可能。完成したばかりの直売所に併設されるジェラート店「いちご日和り」。

ぬい農園 縫村 啓美(はるみ)さん有機農法・有機栽培に沿う 新しい農業の形を目指す

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 栃木市北部の自然豊かな場所にあり、栽培期間中は化学農薬、化学肥料を使用しない有機農法に沿った野菜作りを行っている「ぬい農園」。縫村さんは就農して今年4年目、6面ある畑の土壌改善を行いながら多くの野菜を栽培し、農園に合う野菜を探してきた。「気づいたら150種類くらいに増えてました(笑)。今後は70~80種類に絞ろうと思っています」。収穫した野菜は、直売所や飲食店に卸すほか、野菜セットを市内の個人宅へ宅配、また自らジャムなど加工品を製造するなど、さまざまな形で販売している。そんな縫村さんの目標は、味が良いだけではなく、見た目も美しい野菜を作ること。農薬を使わない栽培は虫食い対策や除草、害獣対策など課題も多く、まだまだ試行錯誤は続きそうだが、野菜作りは楽しいと話すその表情からは、日々の充実感と、野菜作りへの熱い想いが感じられた。
 一方、地域活性化にも積極的に取り組んでいる。近所の人が集える場所の提供や直売所の開設など、過疎化が進む地域に人を呼ぶ方法を模索中だ。「飲食店ともつながりつつ、一緒に地域を守っていきたいです」。農業を通じて地域に変化をもたらせたら、との想いも語ってくれた。
 そんな縫村さんの野菜を絶賛するのは『ピッツェリア クッチーナフラテッロ』のオーナー三澤秀樹さん。「同じ材料で同じ料理を作っても、縫村さんの野菜で作るとワンランク上のできあがりになる。びっくりするおいしさです」と教えてくれた。「ぬい農園」の野菜はうまみが強く、何もせずそのまま食べるのが一番だそうだ。
 地元だから使うのではなく、おいしいから使うという、地産地消の理想的な形を実現する一皿は、今日も多くの笑顔を運んでいる。

手入れの行き届いた畑で、これから旬を迎える大根も成長中。昨年仲間に加わった農園のマスコット、ヤギの「むぎ」は除草担当。

阿久津農園 阿久津正徳さん、政英さん国内最高峰の賞を受賞 稲作のプロフェッショナル

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 黄金色に輝く稲穂が揺れる田んぼを前に、「今年もいい米ができたと思います」と笑顔で口にする阿久津農園5代目の政英さん。日本最大のコンテスト「米・食味分析鑑定コンクール 国際大会」で、過去5年で4度の受賞実績があったが、昨年ついに最高部門の国際総合部門で“特別優秀賞”を受賞。「死ぬまでに一度は受賞したい」と夢見た賞を手にし、米どころ大田原市でも一目置かれる存在となった。
 ナスの栽培を手掛ける父正徳さんと、団体職員として勤務しながら、出勤前と休日を使い米づくりに携わる。二足のわらじを履いても、農業は楽しいという。特にこだわるのは苗づくり。阿久津さんは試行錯誤の末、発芽後すぐに緑色の芽を出す強い苗の栽培に成功。発芽後もハウスではなく、路地栽培でゆっくりと病気に強い苗を育てている。こうした独自の取り組みにリスクは付き物だが、それでもさらなるチャレンジを続けている。「おいしくて健康に良いお米を目指し、これからも追求していきたいです」。阿久津さんの言葉からは、米づくりへの強い情熱が伝わってきた。
 そんな阿久津さんのお米が食べられるのは、宇都宮市にある人気店「和食 了寛」。「阿久津さんの米は炊き上がりの香りが最高です。米肌がよく一粒ずつが立っている。甘みもあり、冷めてもおいしいですよ」とオーナーの田巻さん。土鍋で炊いた味わいはまた格別で、つやつやとした光を放ち、白飯だけでも食が進む。まさにプロも納得の“うまい飯”なのだ。
 阿久津さんの米は、あぜみち鹿沼店と下戸祭店で購入できる。店に並ぶと途端に売り切れてしまう人気だ。新米の季節、秋の味覚とともに、本当においしい米を味わうぜいたくを堪能しよう。

黄金色に輝く美しい稲穂。まもなく収穫を迎える。

3代目 阿部農園 阿部祐一さん生産の快適化を目指す高品質なリンゴ栽培

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 御伽話に出てきそうな、独特なフォルムのリンゴの木。「白雪姫に出てくる毒入りの果実は、なぜリンゴだったのか?」のアンサーが、「作者が個性的な木の形にインスパイアされたから」との解答だったら、至極納得できる。
 「低い位置に実がなるように、あえてこの形に剪定をしているんですよ」と阿部祐一さん。宇都宮市の日光街道沿いにある観光農園「阿部農園」の3代目として、昨年父から家業を引き継いだ。リンゴ狩りができる品種は「津軽」「名月」「秋映」「陽光」「ふじ」の5種類。この畑のほか、近隣に6カ所の果樹園を持つ。全耕地面積1ヘクタールを、両親と祐一さんの3人で管理。品種により収穫時期が変わるとはいえ、摘果や剪定作業は同時期に行わなければならないため、スピードが求められる。「低位置に枝があれば作業効率が上がります。剪定により収量は減りますが、取り遅れなどがなくなるため、品質は向上する。なので、お客様には喜んでいただけると思います」。加えて、年齢を重ねた両親が仕事をしやすくなることもポイントだという。収穫時のカゴの重さは約5キロ。脚立での作業が減れば、身体への負担も軽減する。「今後は植え替えを行っていきたい」と語る祐一さんの目標は、高品質なリンゴ栽培と、労働環境の整備だそうだ。
 リンゴとフォアグラとの相性の良さをタルトの形で表してくれたのは、同市内にある「天空ダイニング Regalo」の鈴木シェフ。リンゴの甘みと酸味が、濃厚なフォアグラと鶏レバーの味わいに寄り添った、個性的かつ趣深い一皿を完成してくれた。
 食材の可能性は無限大。新しい味との出会いは、私たちに喜びを与えてくれる。

7月下旬の様子。まだ青い部分が多い。これから色付き始め、8月下旬から順次販売予定。農園には樹齢30年を超える木も。

岡田ぶどう園 岡田貴志さんブドウの品種に適した 栽培方法で高品質な商品を

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 時は約70年前に遡る。貴志さんの祖父が野菜の生産を営む傍ら、敷地にささやかに植えていた1本のブドウの木。ここから岡田ぶどう園の歴史は始まった。ブドウの生産を本格的に行おうと、2代目園主が栽培規模を拡大。小規模だったブドウ畑は、今や130アールもの敷地で10品種以上を育てるまでになった。近年は、早期成園化・多収・軽労化・土壌病害対策など、たくさんのメリットがあるとされる「盛土式根圏制御栽培」を取り入れ、新しい農法にチャレンジ。ほか、暖房設備を完備したハウスの中では「短梢剪定栽培」を、斜面の土地では昔ながらの「露地栽培」を行うなど、栽培方法が実に多様だ。ハウスと露地で育てる品種の違いを聞いてみると、「昔からある品種は昔ながらの栽培方法で行っています」とのこと。露地栽培は雨ばかりだと黒とう病が発生したり、ハクビシンやアライグマによる被害に遭うこともあり、リスクが多い。そんなときに頼りになるのが、愛犬のベルとレオン。夜間は露地畑で過ごし、野生動物からの被害を守ってくれるそうだ。
 「岡田さんとは創業当時からのお付き合いをさせていただいてます」と教えてくれたのは、下戸祭にある「下野農園」のブランドマネージャー・玉井育子さん。“こだわりを持って生産された農畜産物を、多くの人に楽しんでもらう”をコンセプトに掲げ、地元食材の持ち味を存分に生かした料理を提供している。今回作ってくれた料理は、8月からのディナーコースのデザートとして考案された季節限定の一品だ。岡田さんが作るブドウの豊潤な味わいは、スイーツのおいしさを一段上に引き上げる立役者となっている。
 この時期限定の料理から、夏を感じてみてはいかがだろうか。

樹齢20年を超えるぶどうの木。1本の幹から広く伸びた枝にたくさんの果実が。

下川雅紀•下川明日香さん栄養豊富な生キクラゲを 那須ブランドで全国に

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 那須高原の木立に囲まれた、避暑に最適な立地に佇む“コンテナホテルに滞在”するのは、なんと「生キクラゲ」。「ものすごくワガママなんです、この子たち」と笑顔で話してくれたのは、昨年から生キクラゲの栽培を始めたという下川明日香さん。夫の雅紀さんと二人三脚で、「完全無農薬・通年室内栽培」を行う。コンテナ内は、室温、湿度、紫外線量を徹底管理。それらのデータはスマートフォンで確認ができるそうだ。ミストの噴出時間もタイマーで設定。ハイテクノロジーな技術を随所に取り入れながら、生産を行っている。
「キクラゲは90パーセントが水分のため、“いい水”がたくさん必要なのですが、水が当たるのを嫌うので、世話が大変なんです」。繊細な特性から、水やりは「一定方向から表面だけに」が鉄則。そして適宜、乾燥も必要だという。「重なり合うようにして生えるのですが、上側を早く収穫しないと下側が歪になる。本当に“ワガママ”ですよね」。土壌菌に冒されないよう、手と靴底の消毒も徹底。“手がかかる子ほど愛おしい”というような、温かな親心で見守り、栽培する姿が印象的だった。
 同市内に「旬味酒彩れん」を構え、生ゆばや生ドレッシングの工房も持つ料理長の原田哲典さん。20年にわたり、都内の料理店や那須の割烹旅館で磨き上げた腕を携え、21年前に自身の店を開店した。「生キクラゲ」を探し求めていた時に下川さんを紹介されたのが縁の始まりだとか。「下川さんの商品は歯ごたえが抜群。肉厚で最高です」。幅広い人脈を生かし、多くの料理人にこの生キクラゲを紹介。それにより恵まれた数々のつながりに、下川さんも感謝しきりだという。
生キクラゲの絶品料理を味わいに、この夏は那須に足を運ぼう。

2コンテナずつ成長速度を変えて育成。子どもたちも収穫を手伝う。生キクラゲは美顔用ブラシで丁寧に洗浄。乾燥は天日で行う。

若竹の杜 若山農場 若山太郎さん竹の植栽、観光農場 タケノコ農家新たな試み

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 凜とした空気が立ちこめる竹林の散策路を歩くだけで、神聖な気持ちになれる不思議な感覚。「毎日散歩をしますが、何度歩いても気持ちがいいんですよね」と、代表の若山さん。この竹林を大勢の人に楽しんでもらおうと、約2年前から観光農場を始めた。「昨年は約4万人の方にご来場いただきました」。あまたの映画やCMの撮影に使われてきた「若竹の杜」の評判は瞬く間に広まり、多くの観光客をとりこにしている。この景観の美しさは、100年以上前から続く竹林整備の賜物。代々続くタケノコ農家として、竹林の土づくりに尽力してきた成果なのだ。  近代的な栗栽培を全国に広めた3代前の当主と、豊洲市場で若山農場のタケノコの地位を確立した2代前の当主の志を受け継ぎながら、現当主の若山さんは竹の植栽や観光農場といった新規事業を展開。観光農場を始めてからの変化を問うと、「皆さまに喜んでもらいたいと、竹林管理のモチベーションがより高まりました」と微笑んだ。間引くために伐採した竹はオブジェや遊具のほか、茶屋で提供するための器として活用され、来訪者のもてなしに一役買っているそうだ。  「米ぬかを使ったタケノコの下ごしらえに一石を投じたい」と若山さん。皮を剥き、たっぷりの水で30分ほど煮立てるだけで十分、と話す。  その意見に同意し、“水だけのアク抜き”を実践するのは、同市内にあるレストラン「クーリ・ルージュ」のオーナーシェフ、石川資弘さんだ。「タケノコ本来のおいしさがより一層際立ちますよ」と、この下処理方法に太鼓判を押す。  石川シェフが監修した「筍ごはんの友」や「筍ごはんの素」など、手軽にタケノコ料理が楽しめる商品も大好評販売中。自宅でもプロの味を堪能しよう。

自家農場で採れた栗やタケノコの加工品は土産に最適と好評。孟宗竹林でのタケノコ収穫の様子。

宝咲農園 サンウェルス 富山皓斗さん清潔で無駄のない農業は新規就農者の良き手本に

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 汚れる、費用がかかる、早朝作業がつらい…。それらの“固定概念”を払拭する農業を実践する富山さん。「若い人たちも始めやすいと思う」という農業スタイルは“汚れない、安上がり、好きな時間に作業をする”というもので、一般的なイメージと真逆を行く。
 「ハウスはオークションサイトで購入した中古品です」。まるで新品と見まがう、長さ50メートルの立派なハウスの中、整然と並ぶのは「ANS独立ポット栽培」で養液栽培するミニトマトだ。「ハウスの中は土足厳禁。それにより外からの害虫を防ぎ、病気を抑制しています」。さらに少量培地なので、雑草防除が不要だそう。「余計な作業に時間を取られないので、自由な時間を多く取れる。大変という感覚がないので“農業をしている”というより“トマトのお世話をしている”という感じです。作業も好きな時間に行っているんですよ」。富山さんの畑は、無駄なものが一切ない。だからこそ、最小限のコストで品質のいいトマトの栽培が成り立つのだ。
 東京、イタリアで研鑚を積み、都内の有名店で料理長を務めた経歴を持つ、さくら市の「Anello」のオーナーシェフ・和氣弘典さんが宝咲農園のトマトで作ってくれたメニューは、トマトのパスタ。「このミニトマトは加熱してもほとんど水分が出てこないので、パスタのソースにピッタリです」と話す。ニンニクの香りを移したオリーブオイルにトマトを加え乳化させたシンプルなソースは、素材のうまみが際立つ逸品で、一口ほお張った瞬間に思わず目を見開いてしまうほどのおいしさだ。
 生産者の愛情が詰まった食材が、最高の腕を持つシェフの元へ渡ったとき、至高のパフォーマンスを携えて私たちを喜ばせてくれる。

ほとんどが自作、という清潔感あふれるハウス。独立している苗が印象的。糖度と酸味、食感のバランスが絶妙な「宝咲トマト」。

FARM ABE 阿部敏也さん ニラの国内生産量1位を目指し、新品種を育てる

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 栃木市西方の山間地。平地より日照時間が2、3時間短い土地で育てられる作物は限られる。色付きが重要とされる果物の栽培が難しいこの地では、ニラの育生が盛んだ。
 約10年前から二人三脚で「FARM ABE」を営む阿部さん夫妻。「ニラって意外と繊細なんですよ」と話す。ニラは根を残し切るとまた生えるため、生命力が強く育てやすそうなイメージだが、風に弱く、水はけの良い土を好みながらも水が足りないと葉が硬くなってしまうため、細やかな管理が必要だという。外気が冷たく、日差しの強い春の入り口は、温度管理が大変な時期。二重のビニールハウスで室温管理と風対策を行い、夜間はウォーターカーテンで気温がマイナスにならないように気を配る。ハウス内にぶら下がる二酸化炭素の袋は、光合成を促すためのものだ。「環境作りを行うときは、化学式を思い浮かべます」。ブロッコリーとの輪作を行うのも、土の栄養を考えてのことだ。
 以前は一般企業に勤めていたという阿部さん。農業の良さを問うと、「お客様の声が直接聞けることですね。おいしいって言ってもらえると、明日への活力になります」と笑顔で答えてくれた。
 「阿部さんのニラは、とても甘くておいしいんですよ」と「真名子そば」の女将。娘さんが毎朝打つ二八蕎麦とカツオ節未使用のまろやかなつゆを目当てに、多くの常連客が足を運ぶ。特に『にらそば』には、県外から足繁く通うファンも。2月ごろ限定で楽しめる、一番取りのニラで作った『にらそば』の味は格別だそうだ。  「真名子そば」は「FARM ABE」から車で約5分のところにある。その土地でできたものをその土地で味わえる。それはこの上ないぜいたくだ。土地の恵みを満喫しよう。

幅広な二番取りのニラで作った「ニラのおひたし」。フルーティな香りが特長。シャキシャキとした食感がおいしい。

カキヌマファーム “素人集団”が作る驚きの高糖度トマト

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 ガソリンスタンドや自動車販売、通信回線販売事業などを手がけてきた「株式会社カキヌマ」。これまで培ってきた“物を売る技術”に加え、“物を作る技術”にチャレンジすべく、昨年9月から農業に参入した。作っているのはフルーツトマト『とまおとめ』。パリッとした皮の中には、甘さと濃いうまみが詰まっている。平均糖度10度以上、その味わいはまさに“フルーツ”の名にふさわしい。
 “第三世代の農法”と呼ばれる「フィルム農法」を採用。「昨年9月から農業を始めた“素人集団”なので、農業未経験でも安定して高品質の農産物が作れる農法を調べた結果、フィルム農法を採用しました」と語る。土作りや水やり、根の管理など、経験を必要とする技術が限りなく少ないため、今注目を集めている新しい農法だ。
 生活の根幹を成す“食”。「農業を活性化することで、地域に貢献したい」と、異業種を経験してきたスタッフたちが、日々アイデアを出し合い、情熱を持って真摯に農業に向き合うその姿に、これからの農業の“形”を見た気がした。
 カキヌマファームで作られたトマトで美味なる一品を作り上げるのは、宇都宮市の栃木県子ども総合科学館近くに、昨年10月にオープンした「レストラン Humming bird」だ。トマトを使った料理を試行錯誤した結果、『とまおとめのゼリー』が誕生した。トマト本来の甘さを生かすため、糖分を控えめに仕上げているそうだが、十分な甘みが感じられる。濃厚なうまみが堪能できる『とまおとめ』は、サラダや料理で大活躍だ。
 “食”の世界で地域に貢献したいという情熱が、栃木の食文化を支え、発展させる。料理を味わうとき、そこに込められた作り手の想いも感じてみよう。

特殊なフィルムを使用した栽培方法を採用。トマト本来の力を引き出し、甘くてうまみが濃いトマトに仕上がる。

ながや品質にプライドを持ちブランドの認知を目指す

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 ブランド名を付けて販売するということ、それはすなわち、その商品の品質に責任を持つということだ。「農業従事者は生産者でもあり、経営者でもある」と話してくれたのは、宇都宮市でネギや米、マコモダケなどを生産する「ながや」代表の齋藤さん。齋藤さんの生産物には長屋門をイメージしたブランドマークが入っている。目標は、「このマークの商品がおいしかったからまた買おうと思ってもらうこと」。海外から安価な農作物が大量に輸入されると予想される未来に立ち向かうためには、「品質の良さ」での勝負が必要と考える。「“何県産”の記載だけで品質お構いなしに安値で販売をし続けたら、さらに低価格な海外産に客は流れてしまいます。好きなブランドの製品を購入するように、「このブランドだから」と多少値が張っても買いたくなるような商品作りが重要」と、12町ある田畑の管理を徹底する。多くの人に商品を知ってもらおうと、ネギを使った「オススメレシピ」を奥様が考案し、店頭で配布を行うこともあるそうだ。二人三脚で「ながやブランド」が広く受け入れられる日を目指し、精励恪勤に農業に励む。
 齋藤さんが作るネギをさまざまな料理に使い提供するのは、宇都宮市の中華料理店「満福」。本場の中華料理が種類豊富にそろい、かつリーズナブルにいただける。ネギは中華料理に欠かせない食材だ。だからこそ、ネギそのものの味や質がダイレクトに料理に影響する。吟味した結果、ネギの香りはしっかりしつつも、やわらかく甘みがある、そんな齋藤さんのネギが一番おいしかった、という。寒さのピークを迎えるこの時期がネギがもっともおいしくいただけるタイミングだ。旬だからこそのおいしさを享受しよう。

スライスしたネギをレンジで加熱し、カツオ節とポン酢で食す、「ねぎポン」。レシピが記載された「ながやマーク」が目印の商品。

Strawberry Farm Go若き生産者が挑む新品種の「白いイチゴ」

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 目を輝かせながら「自分のイチゴをつくりたい」と語る篠原さん。作り手によっても栽培法、味、見た目(葉や実のつき方)に違いがある。イチゴ栽培も例外ではない。
 実家も農業を営んでおり、大学卒業後は地元に戻り、農業の道へと決めていた。地元に戻るのだから栃木県の特産物を育てたいと、「栃木県農業試験場 いちご研究所」などで研修、現在27歳ながら「Strawberry Farm Go」の代表として栽培に取り組む。
 「栃木県農業試験場 いちご研究所」が開発した白い色のイチゴ「ミルキーベリー」。まろやかな果肉と濃厚な香りと味わいが特徴。県から親苗を直接購入し、生産開始となった。「ミルキーベリー」は、「新しいものに挑戦したい」という意欲的な篠原さんにとって絶好の機会。しかし、課題もある。売るための市場も自分で確保しなければならないのだ。それでも、毎日手をかけて育てたイチゴが日に日に実ることが最大の喜びだ。「今後は規模も拡大し、直売所や加工品もつくりたい」という、若き生産者の挑戦に目が離せない。
 「色とりどりのフルーツの中にアクセントで取り入れると面白いですね」。そう語るのは、宇都宮市にある「スイーツ&ヘアサロンハレノヒ」の代表兼パティシエの葛西さんだ。県内外の製菓店4店舗で修行を積み、兄と共にこの店を構えた。一階のスイーツ店は、平日の夕方でも客足が途絶えない。「イチゴの白さを際立たせるように、フルーツソースを添えるのもいいですね」微笑みを携え、このイチゴの可能性に思いを巡らせていた。
 甘さと可憐さを併せ持つ、中まで真っ白な「ミルキーベリー」。このイチゴがメジャーになる日は、きっと、そう遠くはない。

約20アール、8棟のビニールハウスで栽培するイチゴ。現在「ミルキーベリー」は200株ほどだが、今後規模も拡大したいという。

高山ファームチームワークで育む栄養満点な大地の恵み

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 朝掘ったばかりのゴボウを選別し、水で洗い、切りそろえていく。機械化が目覚ましい農作業だが、機械化できない作業もある。ゴボウの選別もその一つだ。目で見て、直接触れて、1本1本ていねいに選別していく。ハードな仕事だが、父、妻、昨年新たに就農した長男との絶妙のチームワークで次々と作業が進んでいく。
 開口一番「農業はやりたくなかったんですよ」と、高山洋さん。農業を営んでいた両親の勧めで農業高校、農業大学校に進学したものの、自動車メーカーの車や部品の開発に欠かせないテストドライバーになったという異色の経歴の持ち主だ。母の病気をきっかけに帰郷、「農業について、きちんと勉強し始めてまだ5年くらいですよ」と笑うが、言葉の端々に農業、そしてモノづくりへのやりがいと愛を感じることができた。
 シャキシャキとした小気味よい歯ごたえ、豊かな香り。“旬をいただく”魅力が、高山さんたちが作るこの1本に詰まっている。
 今回、ゴボウを使った3種類の新しいパンを開発してくれたのは、下野市の人気ベーカリー「ブーランジェリーリール」の荒井オーナー。その五感をくすぐる、探求心と遊び心が詰まったパンは、パン好きならずとも多くの人が知るところだ。ゴボウならではの食感を生かしつつ、肉やチーズなどの動物性タンパク質と合わせ、食べ応えがありつつヘルシーなパンを作り上げた。ゴボウが、酸味やスモークの香りとの相性がいいことに驚く。組み合わせ次第で、これまで知らなかった新しいゴボウのおいしさが見えてくる。
 今まさに旬を迎えているゴボウ。さまざまな食材との相性もいい。その独特の魅力を丸ごと享受し、寒さを乗り切る力を蓄えたい。

大きさ、肉厚さ、カサの張りが高品質の証。箱入りは贈答用に最適。「霊芝」は少量をお湯に入れ、お茶にして飲むのがおすすめ。

株式会社きつれがわファーム新規就農と農福連携で地域への恩返しを

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 さくら市の夫の実家の土地で、シイタケ栽培を行ってきた佐藤さん夫妻。しかし約11年前、最愛の夫がハウスの中で倒れ、突然この世を去った。農業未経験の佐藤さんに農業の心得を教えてくれた義母はすでに他界。義父も夫の死去2年後に病死し、残された農地とシイタケハウスの管理と、幼い子ども4人の世話のすべてを1人で背負うことになる。あまりのショックに、ハウスに足を運べなくなり、人にハウスを貸し出したこともあるが、借り手が定着しない。「私がやるしかない!」と一念発起、再びシイタケ栽培と向き合えるようになったのは、夫の死去から7年の歳月が経過していた。もともと完璧主義、という佐藤さん。「経営者としてやるからには」と、分からないことは人から教わり、自ら研究も重ねた。豊かな香り、肉厚でプリッとした食感を併せ持つシイタケは、贈答用にも人気だ。今は漢方の「霊芝」「山伏茸」も取り扱う。地域の人のサポートもあり、事業も安定してきたため、新規就農者の採用・育成も始めた。「今後、障害を持つ方にも働いてもらえるように、環境を整えています。今年11月から就労継続支援A型事業所を開設するので、ご興味のある方お待ちしています!」と笑顔で話す。従業員の体調と職場環境に人一倍気を配るのは、「健康が一番大切」を、身を持って体験しているから。“母の愛”で就労者を優しくサポートする。
 佐藤さんが栽培するシイタケで『石板焼き』と『野菜の天ぷら』の2品を作ってくれたのは、宇都宮市役所からほど近い場所にある「割烹 伊志佐岐」の料理人・石崎さん。「肉厚で張りのある立派なシイタケなので、シンプルな調理法が合います」と、食材のうまみを存分に引き出してくれた。

大きさ、肉厚さ、カサの張りが高品質の証。箱入りは贈答用に最適。「霊芝」は少量をお湯に入れ、お茶にして飲むのがおすすめ。

吉澤泰範あまり人が手掛けない野菜作りをライフワークに

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 そもそも、初めから志高く突き進む道を極めようとする人ばかりではない。流れに身を任せていたら、自然にたどり着いた先が、“今、ここ”だという人は、案外多い。さくら市で農業を営む吉澤さんも、東日本大震災時に職を失い、農作物を育てることになった、いわば運命に導かれてこの道に辿り着いた一人だ。「幼い頃に祖父母の農作業を手伝った程度で、特別な勉強はしていない」というが、5反の畑で「マイクロキュウリ」や「サラダゴボウ」「アロマレッド」など、あまり目にしない多品目を見事に栽培している。牛の堆肥とわずかな化成肥料で土を作り、農薬の量は野菜の種類によって変える。まるで実験するかのように新しい作物を育てる様子は、農業の魅力にどっぷりとハマっているようにも見える。学生時代に励んだ柔道と相撲で鍛え上げられた体躯は、体力を必要とするこの仕事にピッタリだ。現職への流れは、吉澤さんの経験に基づいた、辿るべき道だったに違いない。
 高校の調理科で講師を務める傍ら、鹿沼市でフレンチベジレストラン「アンリロ」や、フレンチと薬膳を合わせたデリの「オードヴィ」、ビストロ「Le Perican Rouge」と、さらに六次化商品を生み出す“ラボ”も経営するオーナーシェフの上村さんが、吉澤さんのニンジンでひらめいた一品は、『キャロットラペ』。「水分が少ないぶん味が濃いので、生で食べるのに最適です。シャキシャキの食感が楽しめますよ」と、手際よく調理。「薬膳セラピスト」の確かな知識で、旬の食材を季節に適した調理法で提供してくれる。
 身体の声に耳を傾ければ、自ずとセルフメニューができ上がる。元気の源を授けてくれる生産者と料理人に、感謝。

キャベツはクボタの半自動野菜移植機「ベジータキッド」で植え付けを行う。「マイクロキュウリ」はピクルスに最適。

田島仁作り手の声に耳を傾け買い手の心に寄り添う

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 9月上旬からのメロン販売に向け、作業もピークを迎えた田島農園。今日も汗を流しながら、ハウス内で実の育ち具合をチェックする。
 メロンの旬は実に短く、彼岸前後には終了。効率のいい耕作計画を実現するため、メロンとトマトの2品種を生産。家族と12人のスタッフが一丸となり、有機肥料使用・低農薬栽培による安心安全な栽培生産に励む。この時期を逃さぬよう毎年のようにメロンを買い求める常連客。贈答用として贈られた側もそのおいしさを気に入り、遠方からも農園を訪れる。リピーターが増え続ける評判のメロンを横目に、笑顔で意外な一言を告げる田島仁さん。「もともと僕はトマトも食べられないし、メロンも苦手。試食以外は食べません」
 代々続く農家を継ぐため、運送業から転職して7年目。自分が食べられないから、人の反応が人一倍気になる。だからこそ家族やスタッフの声に素直に耳を傾け「おいしいものを食べたい、贈りたい」買い手の心に寄り添うことができる。究極の“お客様ファースト”が田島さんの強み。メロンを通じて喜びを届けるため、サラリーマン時代に培ったコーチングを生かし、新たな農業の道筋を開拓している。
 完熟メロンを使用した愛らしいタルトを生み出すのは、宇都宮市泉が丘のタルト専門店「タルト&ケーキアリアド」オーナーパティシエール藤澤さん。旬の果実を味わえるタルトにはファンも多い。あえて生地を固めに仕上げ、水分を必要以上に染み込ませない。結果、果汁やクリームの水分が生地に染み込み、フルーツのうまみを余すところなく堪能できる、一体感のあるタルトを作り上げる。
 食べる人の笑顔を思い描き、記憶に残る商品を世に送る作り手たち。その想いも一緒にいただこう。

有機肥料の使用、温度と水質管理を徹底し、平均15~16度の糖度を保持。「ローラン」「グレース」のほかオリジナルメロンも生産。

吉原ファーム野菜の声と種の記憶が要 見守り育てる自然栽培

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 山に囲まれた日光市針貝で農業を営む吉原治さんが、さまざまな農法を試し、最終的に突き詰めようと考えたのは「自然栽培」。「奇跡のりんご」を育てた木村秋則氏に刺激を受け、独学で勉強。さらに深く知識を得たいと、石川県にある「のと里山農業塾」に一年間通う決意をし、見識を深めた。卒業後には第一子を授かり、「子どもたちが安心して食べられる野菜を作りたい」との思いは一層強くなったという。
 「長雨で大変な目にあったとか、雨が少なかったとか、タネは育った環境を覚えているんです。そして、その記憶を活かして成長するんです。すごいですよね」。タネが潜在能力を発揮できるように原産国に近い環境を作り、育つ過程を見守り、サポートをする。育成を肥料と農薬無しで、成長を促すということは、簡単なようでいてとても難しい。収穫量も少なく、生産者が抱えるリスクもとても多い。それでも、この農法を続ける理由。それは「やっぱり、おいしいから」。
 自然の力で育った野菜を使用した「身体リセットご飯」を提供するのは、同市内の日光街道沿いにある「自然茶寮 廻」。自然栽培や有機栽培で作られた野菜と、地場産の無化学肥料・無農薬栽培で育てられた「滋養米」を使った料理が楽しめる。体調を崩した経験から、奥さんと2人で“心と身体を労わる”をテーマに店を始め、今年で10年が経つ。吉原さんが丹精こめて育成したダイズは、店主の山口さんの手によって、『チリコンカン』へと変わり、ゲストの“元気”をサポートする。
 “健康でいられますように”作り手の願いが込められた食材が、私たちにたくさんのパワーを授けてくれる。

50年以上作り続ける「ダイズ」。食用花「ダリア」「相模半白胡瓜」「シャドークイーン」など、珍しい野菜も積極的に栽培。

高崎智子さん野菜のパワーを生かした有機栽培で作物の育成を

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 天真爛漫な笑顔が魅力的な高崎智子さん。鹿沼市の住宅と田畑が混在する場所にハウスを借り、7年前からエスニック料理で使用する野菜を作り始めた。子どもが成長し、自分の時間が持てるようになったとき、挑戦したいと考えたのは両親も営んでいた農業だった。出身国であるタイの料理を頻繁に作ることから、「パクチー」を育成しようと決意。その後、「パパイヤ」「ニンニク」「タイ茄子」など、栽培品目が増えた。「師がいないので、栽培方法は検索。毎年1年生の気持ちで作っています」。
 根から花まで、すべてが調理に使用できる「パクチー」だが、日本でなじみがあるのは育成30〜45日目くらいのやわらかい葉の部分のみ。根の部分はあまり流通していないが、スープのダシ取りに適しているので、エスニック料理には必要不可欠な食材だ。「根の部分が欲しいと、ハウスまで買いに来てくれる方もいます」。“栽培を始めたからこそ知り合えた人々とのつながりがうれしい”と満面の笑みで語る。昨年は思うように育たなかった「ニンニク」が、今年は育成大成功!乾燥させ、仕上がり次第、順次販売予定だ。
 高崎さんが育てたパクチーを使用した、ジューシーかつ香り豊かな料理を提供するのは、宇都宮市江曽島駅徒歩6分の場所に今年の春オープンした新店「MooM」。タイ料理やパエリア、焼き牡蠣などを、酒と一緒に気軽に楽しめる“バル”だ。香りや味わいの良さを重視し、“フレッシュハーブ”(ガパオやパクチーなど)を使用。「日本人の味覚に合わせて仕上げています」と語るのは店主の神野由浩さん。朗らかな奥さんと夫婦二人三脚で店を営む。
 暑い国の料理は夏にピッタリ。タイ料理を食べて酷暑に挑もう。

昨年から栽培を開始し、今年初めて育成に成功したニンニク。パクチーの実(コリアンダー)はスパイスとして活用。乾燥させて、タネとしても使用する。

帰農志塾自然の持つ力を生かした地球に優しい有機農業

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 山に囲まれたのどかな景色の中に、約7ヘクタールの畑で少量多品目で旬の野菜を有機農業で育てている農場がある。「帰農志塾」と呼ばれるその場所は、日本農業の後継者を育てるために、約40年前に設立された。巣立った生徒たちは新規就農や技術協力活動を国内外で行なっている。“今を共に生きる”の理念を掲げ、「自分でやれることは自分でやる農業」を教示する、塾長の戸松正行さん。
元々は塾生として入塾したが、妻との結婚を機に2代目となり、この塾の指揮をとる。「土がすべての源です」広大な農場の土作りは、裏山の落ち葉を集めるところからスタート。「落ち葉に米ぬかや鶏糞を混ぜて腐葉土に。1年かけて発酵させるので、“いい菌”のいる良質な土になります」発酵食品の菌が人間の体に良いように、土にとっても発酵でできた菌は病気を蹴散らす役目を果たす。
農薬で土壌に負荷をかけないため、連作障害の心配も無い。「鶏を700羽育てているので、鶏糞も自給。いろいろ手間は掛かりますが、土も野菜も無理なく、自分たちの力でたくましく育つ。それが「帰農志塾」の農業です」
 宇都宮の長岡町に店舗を構える「すし華亭」では、おいしい江戸前寿司のほかにも、一品料理が豊富にそろう。定番人気の天ぷらには、「あぜみちで購入した旬の野菜を使っています」と店長の柴田さん。コーンサラダ油とごま油を使用した天ぷらは、香りが芳しく、軽やかな揚げ上がりだ。「海鮮類は下衣(小麦粉)をまぶしてから衣を付けます。すると衣が剥がれにくいですよ」揚げ上がりには、衣を散らし、天ぷらに花を咲かせる。このひと手間こそが、見た目にもおいしい料理になる秘訣だ。
 作物も料理も、手間を惜しまずに作られた物がやっぱりおいしい。

鶏糞を腐葉土作りやぼかし肥料に使用。卵は販売。「帰農志塾」の自然環境を生かした有機農業を説明してくれた塾長の戸松さん。

大谷恭伸さんホワイトアスパラで地域ブランドの確立を目指す

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 暗闇の中で灯されたヘッドライトの光を受け、白い姿が浮かび上がる。神々しい白さを放つホワイトアスパラを育てるのは、さくら市で農業を営む大谷恭伸さん。県内の農大で学んだ後、北海道の酪農学園大学でより詳しくアスパラガスの栽培技術を習得。グリーンアスパラを育てる両親の背中を見てきたため、アスパラを勉強することは自然な流れだった。「農業者の認定を受けたときに、県から周りで作って無いようなものをと勧められて。それなら、ホワイトアスパラにチャレンジしてみようと」
 育成環境が特殊なホワイトアスパラ。ハウス内を40度以下に保つため、天気良好時ほど換気に気を配る。「早朝と昼、暑さのピークの午後2時頃と、夕方の計4回。こまめに温度を管理しています」茎に水滴を多く纏い、みずみずしいが故に折れやすい。光を浴びると緑色に変色するため、収穫時の光も最小限にすることが必要。見た目通り、繊細なホワイトアスパラは、気温が高くなると栽培が難しいため、4月下旬に生産は終了だ。
 大谷さんが手塩にかけて育てたホワイトアスパラを調理してくれたのは、氏家駅西口ロータリーすぐそばの「フレンチバルGOE」の五江渕一真オーナーシェフ。「ホワイトアスパラは柔らかくなるまでゆでたほうが甘みが増しておいしいですよ」ゆで汁に小麦粉を入れて白さを際立たせたり、レモンの酸味でえぐみをなくしたり。素材の状態を見て、完成の一皿を思い描きながら仕込み方を変える。「素材があってこその料理。食材がどう調理して欲しいか、語りかけてくるんですよね」百折不撓の経験者だからこそ聞こえる声を頼りに、新しい美食を産み出す。今だからこそ楽しめる旬の味わいを、たっぷりと堪能しよう。

遮光シート「ホワイトシルバー」でハウスの内側を覆い、光を完全に遮断。白さ際立つホワイトアスパラ。泥落としに気を配る。

根本農園手間暇惜しまず愛情注ぐ物作りへの飽くなき挑戦

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 鹿沼市にある根本農園では、黄色、オレンジ、赤、紫、緑とカラーバリエーション豊かなミニトマトを栽培している。トマト大玉、中玉、ミニと合わせれば、現在9種目を育成。過去には「ゼブラ柄のトマト」や、「ひょうたん型トマト」の栽培にもチャレンジ。「ひょうたん型は育つと収穫前に落ちてしまって。味は最高だったんですが」。興味を持ったら必ずチャレンジするという根本さん。一筋縄ではいかなかった収穫を懐かしそうに語る姿は、好奇心の旺盛さを感じさせる。「ドアを作る職人だった」という園主は、結婚を機に妻の実家の家業を継いだ。「作るものは変わりましたが“人と違うものを作りたい”という想いは変わりません」。生来の職人気質なのだろう、栽培にかけては土作りから妥協をしない。作が終わると畑を田にし、マルチで覆い、熱で殺菌消毒。あらぬかを堆肥にし、ぼかし肥料と合わせて使用するなど、有機栽培に近い状態で作るからこそ食後感がスッキリとした濃厚なトマトが実ると語る。極限まで水を減らし、甘みが増幅したカラフルトマトはまさに“至高無上の逸品”だ。
 同市内に、根本農園のトマトに絶大なる信頼を寄せる店がある。「ラーメン山いち」では、トマトが収穫される間限定で『冷やしサラダ麺宝石トマトスペシャル』を提供。色とりどりのミニトマトに魅せられた店主と女将渾身の作だ。トマトの甘みを引き立て、野菜と平麺によく絡むしょう油ベースの酸っぱいタレを纏った一杯は、これからの季節にピッタリ。
 「食べてもらえることが喜び」と作り手は言い、「この食材に出会えたから作る」と料理人は語る。人と人との繋がりから完成したきらめきの一杯に感謝して、ありがたく頂戴しよう。

色とりどりの鮮やかなミニトマトがぎっしり入った贈答用の黒箱。「宝石箱みたい!」と大評判。オリジナルビネガーとタバスコも。

株式会社トマトパーク最先端の施設園芸設備でトマト栽培の教育研究を

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 異常気象が続く昨今、予測困難な天候によって受ける作物被害は農家にとってダメージが大きい。株式会社誠和の子会社である、下野市の「トマトパーク」は、天候被害にあいにくい「施設園芸」を世界最先端技術で行うトマト栽培施設だ。「ハウス栽培は難しい農業。挑戦する生産者をサポートしたい」と語るのは、株式会社トマトパークの石川さん。先行投資が必要なハウス栽培には“確かな技術が必須”と今後の農業を牽引していく若手農家の育成も積極的に行う。「ハウス栽培はこまめな計測が重要。いい結果が出た時のデータを活用すれば、土地の生産性・収益を上げることが可能なんです」それらを理解してもらうためには実績が重要と、日本品種のトマトでの高生産栽培を実践。その結果、一般的なハウス栽培での収量はおよそ10アールで15トンのところ、なんと50トンの収穫に成功!その功績は今、多くの企業や行政、農家に認められ、施設の見学ツアーも好評だ。「収量100トンも夢ではない、ということを実証していきたい」と、施設園芸が多くの人の喜びに繋がる日を目指し、日々進化を続けている。
 「トマトはうまみと酸味を兼ね備えているので、使いやすい素材です」と、トマトを使った絶品パスタを作ってくれたのは、宇都宮市みはし通りに店を構える「ビストロエピス」のオーナーシェフ、島達彦さん。「気軽なスタイルの店で、ハイレベルな料理を提供していきたい」と、真摯に料理と向き合うシェフは、客の要望を可能な限り聞き入れてくれる。パスタはリクエストも可能なので、ぜひオーダーしてみよう。
 高品質な食材は料理人の感性を刺激し、最高の料理を生み出す。そのぜいたくを甘受しよう。

敷地面積18,000㎡、軒高6m。最先端設備のトマト栽培施設。「LED樹間補光」で日照時間を調節。1日16時間照射するという。

和みの杜農業と運送業の粋な関係新たな一歩が地域貢献に

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 時として、異業種からの新規参入というのは歓迎されにくい。運送会社を母体に持つ、さくら市の「和みの杜」は、定年が70歳というドライバーの「定年後再雇用の場を確保したい」という思いから農業を営み始めた“新参者”だ。皆、本格的な農業は未経験。離農者所有の農地を借りるにも、“農家としての信頼”が薄いために苦労の連続。しかし、堅実に農業に向き合い、周囲からの信頼を得られた現在では、契約栽培でイチゴやショウガ、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモに米と、数多くの品目を育てられるまでに至った。
 ハウスで土耕栽培をするイチゴの「スカイベリー」は長さ60メートルの畝で、艶やかで鮮やかな赤を放つ。「蜂の受粉がうまくいくと、綺麗なイチゴが育つんです」と、部長の郷間さん。「運送業の閑散期に農作物を運べるので一石二鳥。ほかを経由しないので、新鮮な状態でお届けもできます」と、この形態の利点を語る。理にかなった両立から新たな農業スタイルを垣間見ることができた。
 イチゴをキュートなデザートに変身させて人気を博しているのは、宇都宮市の菓子工房「S・ナカヤマ」。ショーケースにはイチゴを使ったケーキがズラリ!「スカイベリーは水分が多いので、ケーキで扱うのは難しいんです」と語るオーナーパティシエの中山さん。「あまりほかでは見かけない、めずらしいイチゴのケーキを楽しんでもらいたいと思って挑戦しました」と、“イチゴ王国・栃木”ならではのケーキの完成を喜ぶ。
 生産者が手塩にかけて育てた果物が、熟練のパティシエの手に渡り華麗なる変身を遂げる。そんなファインプレーから生まれた至福のスイーツ、ぜひ心ゆくまで味わおう。

養蜂場からレンタルするみつばちは、イチゴの生産にはなくてはならない存在。農地で生産された作物は、自社トラックで運搬。

赤川農園一瞬のひらめきを大切にクリエイティブな農業を

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 地面に落ちた一枚の枯葉を見て何を思うか——。「知恵は知識にまさる」とはパスカルの言葉だが、赤川さんは、観察で得たひらめきを農業に生かす達人だ。有機栽培でレンコンを育てる赤川さん。使用する肥料は、「乾燥茶葉」「カカオの皮」「コーヒーかす」「大豆」「でんぷんのり」と、原材料はすべて食品。「乾燥茶葉は保水力があるので、腐葉土の枯葉より養分を保持してくれる。ここの砂地に適した堆肥はこれだ!と思いました」その発想力は、鳥よけにも発揮。「鴨が育ったレンコンを食べてしまうんです。被害に遭わない方法を考えていた時、草がある場所だけ無事なことに気付いて」あえて畑で草を育ててみると、これがビンゴ!鴨が草を食べるためか作物への被害は減少。しかし、養分が取られてレンコンは痩せてしまう。「草を茂らせるタイミングを何年も調整して、今年で4年目。やっといい頃合いを計れるようになりました」晴れやかな笑顔を見せる赤川さんからは、レンコンへの惜しみない愛情が感じられた。
 二期倶楽部の総料理長などを歴任してきた宮﨑オーナーシェフが、自由な発想で訪れる人を魅了する「美食工房ラトリエ・ムッシュー」では、赤川さんのレンコンを使った料理を提供している。店で使う食材は、すべて自ら出向き、自ら味わい、厳しい目で選び抜いたもの。「赤川さんのレンコンは、レンコンそのものの味わいがしっかりしている。食感もいい」と宮﨑氏。この“レンコンそのものの魅力”がストレートに伝わるよう、さまざまな調理法を駆使。レンコンのまた新たな魅力に気付かせてくれる。達人が育てた野菜を達人が調理し、提供する。ゲストとして訪れる我々は、その競演に魅了されてやまない。

大豆や乾燥茶葉などを混ぜた堆肥は、毎年約4〜6トン使用される。“ムチン”を豊富に含むレンコンは、風邪の予防に最適!

鈴木ファーム楽しくおいしい野菜作り子どもが憧れる農業を

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 片手間でできる仕事ではない。けれど、農業に根付く“大変”“つらい”“儲からない”という印象を、未来を繋ぐ子ども達に抱いて欲しくない。「野菜を“おいしい”と言ってくれる喜びがある。一生懸命やれば儲かる。そんなポジティブな農業を子ども達には示していきたいんです」そう語る鈴木さん夫妻。小山市で「鈴木ファーム」を二人三脚で営んでいる。奥様は「農業女子プロジェクト」にも参加。女性ならではの視点で、農業の活性化に貢献している。契約栽培がメインだが、昨年からは“こども食堂”へも食材を提供。自身たちのテーマである「子どもが“おいしい”と言ってくれる野菜作り」を積極的に実践している。「子どもはおいしければ食べてくれる。なので、子どもの意見は大事ですね」“おいしさ”の追求は日々続き、品目は同じでも“よりよい味”を求めて、新しい品種を積極的に育成。「“鈴木ファームの商品だから”と購入してくれるお客様が増えてくれればうれしいです」
 全国各地から厳選した旬の魚介を生かした料理が人気で、宇都宮市に3店舗を展開する「海蔵」では、最近「野菜」にも力を入れている。“栃木県のおいしいもの”を追求していくと、いつしか「野菜」にたどり着いたという。季節のおいしさがギュッと詰まった旬野菜。そのまま生でいただくのはもちろん、漬物やグリルなど多彩な調理法で提供している。「野菜の知識を持った料理人もいるので、それぞれのおいしさを最大限に引き出す調理法を考えています」と料理長。華やかな料理は、栃木県の豊かな大地を象徴しているかのようだ。「栃木の野菜はおいしい、と胸を張っておすすめできます」。その言葉に、栃木の魅力を改めて感じることができた。

約2ヘクタールある畑では、季節に合わせた野菜を栽培。お客様の声を反映させたよりおいしい野菜作りを目指し、奮励努力の日々。

乙連沢梨園お客様目線を大切に農業の新しい道を切り開く

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 のぼり旗はためくあぜみちを進むと、広壮な梨畑が見えてくる。「豊水」「秋月」「かおり」が所狭しと並ぶ直売所に流れるのは、なんと“パンクロック”。「農業を始める前はパンクバンドでプロを目指していました。アパレルに興味があり、古着屋の店長もやりました」と阿久津憲人さん。
 転機は東日本大震災。「ニュースで食への不安が流れる中、自分も子どもたちに安全な食べ物を食べさせたい。だったら自分で作ろうと」。自ら立ち上げたアパレル店の経営と、生産者という二足のわらじ生活。「農業の奥深さを知って、ハマってしまって。農業に本腰を入れることにしました」3年間の兼業後、「観光なし園」の開設や、梨を使った加工品の開発・販売と、アイデアを次々形に変えていく。「やりたいことはたくさんある。仕事に正直に向き合い、お客様目線で考え、固定概念にとらわれない農業がしたいです」
 「阿久津さんからはいつも刺激を受けています」と朗らかに語ってくれたのは、瓶詰工房「Funky Pine」の松島宏直さん。無添加で作られる商品は消費者からの信頼も厚い。自ら依頼者の畑に出向きリサーチ。こだわりや想いをのせた物作りがモットーだ。「まず試作品を作り、意見を交換します。万人に愛される味ではなく“依頼者が一番好きな味”を追い求めます」この秋、松島さんの悲願であった小売店舗を宇都宮市に構えることになった。「加工所が間に入り、生産者同士の橋渡しができれば」生産者同士をWin-Winでつなぐ理想的な関係が、ここ栃木県で少しずつその輪を広げているのを感じることができた。 
 ただ作るだけではなく、人が喜ぶ顔が見たい。生産者の実直な想いを“食”から感じてもらいたい。

採れたての梨が並ぶ直売所。果肉感たっぷりのオリジナルドレッシングや焼肉のタレも販売。かわいらしいオリジナルラベルが目印。

諏訪農園県南でブドウを突き詰め、農業を経営する若き職人

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 優れた地場特産品に贈られる称号「下野ブランド」に、今年度「シャインマスカット」が認定された諏訪農園。「ブドウができ始めて5年、ようやく品質を保てるような土壌を作ることができました」
 農家の長男だが“農家”を後継することには消極的だった諏訪さん。しかし都内で働き社会を経験、俯瞰で家業を見つめ直したとき、“一企業としての農業”に面白さを感じた。「農家は職人でもあり、同時に経営者であることが必要。やりがいある仕事だと感じました」 
 後継するにあたり、自らの農業経営の主軸となる農作物を模索していたとき、ブドウに巡り会う。果樹栽培は未知の世界だったが、栃木県農業試験場で基礎を学んだ。そんな中、運命の「シャインマスカット」に出会う。尊敬する師匠にも巡り会うことができ、今の諏訪農園のスタイルができ上がった。地元の誇りとなる商品を作り上げ、今年はふるさと納税の返礼品にも選ばれている。今以上においしいブドウを目指し、汗を流す毎日だ。
 そのままでもおいしいシャインマスカットを至極の商品へと変貌させるのは、壬生町の有名和菓子店「松屋」。やわらかい餅とほどよい甘さの白あんが、ブドウをやさしく包む。「餅が温かいうちでないとうまく作れないので、スピード勝負です」と神永社長。素早く手の中で形成し、でんぷん粉で白い化粧を施す。流れるような手さばきで、一口大の愛らしい大福を次々と生み出していく。2種類1袋で販売されるこの商品は、一方のブドウの生産が終了した時点で製造休止。旬なブドウのおいしさを味わえるのは期間限定だ。
 大地の力を根から取り込み実を熟成させる、果実ならではの華々しさがある。新鮮なパワーを享受して、四季を感じるのも一興だ。

3種を少量ずつ試せるパックも販売。

日光あおぞら農園作物の生命力を引き出す身体にやさしい野菜作り

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 育成に手間をかけ、少量多品目の野菜を無肥料・ 無農薬の“自然栽培”で育てている石川昭男さん。食育インストラクターの資格を持つ奥様の「人間の身体は食べたものでできている」という台詞に感銘を受け、自然栽培を決意。以来、自然の力で野菜が元気に育つ方法を徹底的に調べ、良いと感じたやり方を積極的に取り入れ、試みる。努力の結果がついに実り、自然栽培で作り始めて3年目のオクラがこの夏初出荷を迎える。「大変ですが、できないことはないと自信につながります」
 同じく出荷時期を迎えたズッキーニの畑には、ミツバチが現れ始めた。「薬剤を使用していた時はいなかったのですが、薬剤を使わなくなったら畑に戻ってきてくれて。自然のすごさを体感しています」今では自然界の生物が石川さんの農業を手助けしてくれている。自信に満ちあふれたその笑顔からは、人にやさしい野菜を作るという強い信念が感じられた。
 そんな丹精込めて作られた食材を魅力的な料理に変身させてもらうべく、調理をお願いしたのは宇都宮市の人気店「LAU LAU」の津吹オーナー。「こだわって作られた野菜は、シンプルな調理法が一番おいしいですよね」素材の“旬”を大切に、持ち味を引き出す手法には一切のごまかしがない。「バターナッツカボチャは、上側の細い部分と下側の丸い部分の味が異なる興味深い素材。あえて違う味を一皿にまとめたい」と、この食材との出会いを喜ぶ。「ビオワインの白と合わせると、料理がよりおいしくなりますよ」酒と料理の相乗効果を気軽に楽しんでほしいと語る。
 本来の力を引き出された作物のエネルギーは、食べる人にパワーを与えてくれる。旬の野菜から日々の活力をいただこう。

この日初収穫だった角オクラと赤オクラ。地面から空に向かって成長するズッキーニ。少量多品目でさまざまな野菜を生産している。

NPO法人 自然史データバンク アニマnet自然と人間が調和する心地よい農業を目指して

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 身近に存在する動植物の生態を調査し、自然を守り、伝える活動をするNPO法人「自然史データバンクアニマnet」。その中の農業・古民家プロジェクト「FROGS」では、米、麦のほか多彩な野菜を栽培している。夏の日差しが照り付ける中、待っていたのは真っ白なナス『揚げてトルコ』。「名前の通り、揚げものにぴったりで、ねっとりとした食感が楽しめます」と農業部門長を務める福田さん。
 福田さんは子どものころから動物や昆虫が大好き。自然観察を楽しんでいたという。ここでは“昆虫博士”として自然学校の講師を務めながら、少量多品目でさまざまな野菜の栽培に取り組む。目指すのは生き物も人間も安心して食べられる野菜を作ること。「栽培期間中は無農薬なので、飛び地で栽培することでリスクを分散。花が咲いた、実がなったと言っては喜び…。今はトライ&エラーを繰り返して勉強しながら“自分流”の農業を模索しています」
 宇都宮市大谷エリアの注目の新店「OHYA FUN TABLE」では、福田さんたちが育てた白ナスのほか、栃木県産の食材を中心に使用。宮城県出身の大友オーナーシェフは、妻の出身が宇都宮市、さらに義父が大谷石職人・彫刻家であったことから、大谷の魅力を“食”で発信すべく“見て楽しい、食べて楽しい”レストランを目指し、この店名を付けたという。
 栃木県内の魅力的な生産者を知るほど、栃木県産食材に惚れ込みを深めているという。「この白ナスも料理人として魅力を感じる食材。火を通すととろける食感になり、味も繊細で上品です」と語る。
 魅力的な食材を作る生産者、食材の魅力を引き出し、提供してくれる料理人。“食”から、地元への理解を深めるのも心躍る経験だ。

めずらしい白ナスの品種『揚げてトルコ』。他のナスのように皮から色が出ないので、料理のバリエーションも広がる!