- あまり人が手掛けない野菜作りをライフワークに -
そもそも、初めから志高く突き進む道を極めようとする人ばかりではない。
流れに身を任せていたら、自然にたどり着いた先が、“今、ここ”だという人は、案外多い。
さくら市で農業を営む吉澤さんも、東日本大震災時に職を失い、農作物を育てることになった、いわば運命に導かれてこの道に辿り着いた一人だ。
「幼い頃に祖父母の農作業を手伝った程度で、特別な勉強はしていない」というが、5反の畑で「マイクロキュウリ」や「サラダゴボウ」「アロマレッド」など、あまり目にしない多品目を見事に栽培している。
牛の堆肥とわずかな化成肥料で土を作り、農薬の量は野菜の種類によって変える。
まるで実験するかのように新しい作物を育てる様子は、農業の魅力にどっぷりとハマっているようにも見える。
学生時代に励んだ柔道と相撲で鍛え上げられた体躯は、体力を必要とするこの仕事にピッタリだ。
現職への流れは、吉澤さんの経験に基づいた、辿るべき道だったに違いない。
高校の調理科で講師を務める傍ら、鹿沼市でフレンチベジレストラン「アンリロ」や、フレンチと薬膳を合わせたデリの「オードヴィ」、ビストロ「Le Perican Rouge」と、さらに六次化商品を生み出す“ラボ”も経営するオーナーシェフの上村さんが、吉澤さんのニンジンでひらめいた一品は、『キャロットラペ』。
「水分が少ないぶん味が濃いので、生で食べるのに最適です。
シャキシャキの食感が楽しめますよ」と、手際よく調理。
「薬膳セラピスト」の確かな知識で、旬の食材を季節に適した調理法で提供してくれる。
身体の声に耳を傾ければ、自ずとセルフメニューができ上がる。
元気の源を授けてくれる生産者と料理人に、感謝。
● 吉澤泰範さん
キャベツはクボタの半自動野菜移植機「ベジータキッド」で植え付けを行う。「マイクロキュウリ」はピクルスに最適。