- 母の想いを引き継ぐ畑で 夫婦が育てる大根 -
定年まで、一般企業で事務職を務めあげた川上さん。
転勤族で何度も居を移したが、最後は母が暮らす那須烏山市に戻った。
幼くして父を亡くした川上さんを、母は米農家として女手一つで育て上げた。
そうした環境もあり、退職後は自然に畑仕事を始めた。
特に農家としてやっていこう、という気構えもなかったという。
「その頃母は90歳を超えていましたがまだ現役で、私が畑をやっているのを見ては指示してましたね」と笑う。
その後お母様は107歳で大往生され、川上さんは畑を引き継ぎ、本格的に農業に参入した。
大根の栽培は春と夏の年2回、暑さに強く総太の「夏の守(かみ)」を育てている。
そして手間はかかるが葉付きで出荷するのが川上さんのこだわりだ。
価格もできるだけ安くしているそう。
「だから全然儲からないんですよ」と笑う。
二人三脚で従事する奥様も「こんなはずじゃなかったんですよ」と言いながら笑顔だ。
利益だけを追求しない、自慢の野菜をたくさん食べてもらいたい、そんな想いが感じられる。
大根以外にも川上さんが育てる野菜は実に多品種。
この時期だけでも、大根・里芋・サツマイモ・人参・カブ・大豆・柿など。
「いつの間にか増えちゃって…」という川上さんに「今後の目標は種類を減らすことね」と奥様。
そんなお二人の素敵な関係が、やわらかく優しい味わいを持つ、川上さんの野菜に現れている気がした。
大根を使った冬の代表料理といえば「おでん」だろう。
宇都宮のおでんの名店「種一本店」では、高さ10センチを超える大きな大根おでんが人気だ。
一つずつ手間を惜しまない、隠し包丁など職人の技が活きる、ここでしか味わえない一品。
日本人でよかったなぁとしみじみ思いつつ頬張りたい。
● 川上 優さん
50mを超える畝が6本ならぶ大根畑。
収穫した大根を水洗いし、きれいにテープ巻きまですべて手作業だ。